恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「殿下、ここは私たちに任せて逃げてください!」
それぞれ飛龍の十五歳ほど上の、がっしりした体格の側近たちが兵士の剣を受けながら叫ぶ。
飛龍は一瞬迷った。
(俺がここにいない方がいいかもしれない)
飛龍を殺そうと、兵士たちは躍起になって襲いかかってくる。彼が一度この場を離れて逃げれば、もともと統率の取れていない兵士たちはちりぢりになるだろう。
「しかし、お前たちを置いては……」
星稜の地に王として封ぜられる前から一緒にいた側近たちだ。二人ともかなりの手練れだが、自由に動けないこの地で五十人を相手にするには無理がある。
一緒に戦うべきか否か。迷った瞬間、熱が飛龍の左肩を貫いた。
「殿下っ!」
熱の塊だと思ったものは、木の陰から放たれた弩だった。その矢じりは胴当てと護肩の間に当たり、砕けた甲冑の欠片が彼の血液と共に飛散した。
撃たれた衝撃で馬から落ちそうになるが、なんとか耐えた飛龍の馬の腹を、側近が足で蹴る。
「早くお逃げください! 後程必ずや合流いたしましょう!」
飛龍の愛馬が嘶き、方向を変えて駆けだした。飛龍は側近たちの姿を見る暇もなく、片手で手綱をとってその場から遠ざかる。