恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「くそっ」
星稜王・向飛龍ともあろう者が三流兵士に傷を負わされるとは。
清張城への道を戻る飛龍の後ろから、追手が近づいてくる。やはりふたりの側近で全員は押さえきれないようだ。
飛龍は右手で剣を構え、追ってきた五人の兵士と向き合った。沈黙は一瞬で、彼らは次々に飛龍に襲いかかる。
彼は通りすがりざまに、振り上げられたひとりの腕を斬り落とす。その勢いのまま上半身を回転させると、後ろから斬りかかろうとした者の喉に剣が刺さった。
首の骨に引っかかって取れなくなったそれを捨て、背負っていた戟を構えた。
「まさか」
鳴鈴の身の丈ほどもある戟を片手で構えた飛龍に、兵士たちは慄く。ひとつに縛った長い髪を風になびかせるその姿は、闘神阿修羅と見紛うほどの殺気に満ちていた。
「悪いが、俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ」
傷を負っていても敵を恐れる様子のない飛龍に、兵士たちはごくりと唾を飲み込んだ。
先手を打ったのはひとりの兵士だった。飛龍とのにらみ合いの緊張感に耐えられなくなった彼は、その切っ先を飛龍に向けた時点で、戟で腹を突かれていた。