恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
残る二人は飛龍の前と後ろから挟み撃ちしてくる。
後ろから切りつけてきた兵士を戟の柄で突き、落馬させた飛龍は、前の敵に向かってそれを押しだした。
胸に戟を受け、甲冑を砕かれた兵士は両手で剣を構えたまま、絶命して馬の首に倒れ込む。
敵がいなくなると、飛龍は重い戟を捨てた。
馬から降り、倒れた敵から剣を奪う。そのとき、肩の傷がずきりと痛んだ。
思わず手で押さえると、赤黒い血がべったりと衣服を濡らしていることに気づく。
(帰らなければ……鳴鈴が心配する)
左手の指先から、ぽたりぽたりと血が滴り落ち、足元の腐葉土に吸い込まれていく。
飛龍の脳裏に浮かぶのは、愛しい妃の不安げな瞳だった。
痛みをこらえ、愛馬に跨ろうとすると、その胴や足に刺さった矢の数に驚いた。
「痛かっただろう。よくここまで走ってくれた」
愛馬の顔をさすってやると、彼は目を伏せ、飛龍にすり寄った。
飛龍は手綱を持ち、山の中を馬と一緒にゆっくりと歩き始める。
側近たちの安否も気になるが、飛龍が戻れば彼らの気持ちを無駄にしてしまうことになる。
とにかく飛龍は前を向いて歩く。その時だった。
後ろから不意に馬の蹄の音が近づいてきた。また追手かと思い振り向くと、そこには主を失った馬だけがいた。