恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
どこに向かっているのか、混乱しているような馬は右へ左へとよろよろしながらも、速度を上げて近づいてくる。
(乱心しているのか)
馬から距離を置こうと、飛龍は後ずさる。何歩か後退すると、不意に草むらに足を取られた。
がくんと飛龍の体が傾いた。片足が、宙を蹴っていた。
彼の背後には水音が。近くに川が流れているのには気づいていたが、まさか崖があるとは。
咄嗟に手を伸ばす。崖の端から出ている木の根をつかんだ。
しかし、体の重みで手が滑る。落下を食い止めることはできなかった。
甲冑が崖の斜面をこすり、砂ぼこりを立てる。ごろごろと転がり落ちた飛龍は、やがてどすんと地上に叩き付けられた。
痛みが彼の全身を襲う。遠くなっていく意識の中で、微かな水音と愛しい妃の声が聞こえたような気がした。
「めい、り……」
お前のところに戻ると約束した。ここで死ぬわけにはいかない。
しかし飛龍の体は、ぴくりとも動かなかった。彼の意識はそのまま、遠く連れ去られてしまった。