恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「あっ!」
鳴鈴は思わず馬から降り、ある遺体の傍に駆け寄る。彼女が草むらから持ち上げたそれは、飛龍の戟だった。
「李翔さま」
李翔も見覚えがあるらしい。鳴鈴から戟を奪い取るようにした彼は、睨むようにそれを見つめる。
「二兄がこの近くにいるはずだ。探せ!」
状況を知らない兵士たちは首を傾げた。しかし李翔に「早く!」と怒鳴られた彼らは、戸惑いながらもそれぞれ飛龍を探しはじめた。
「俺たちも行こう」
馬を引いた李翔に言われ、鳴鈴も歩き出した。彼女の胸に暗雲が立ち込める。
兵士の遺体があるということは、萩軍に襲われたか、飛龍と交戦したかのどちらかだろう。
(お願い、無事でいて)
祈るように深い森の中に入っていく。
「二兄――――っ! どこだ、二兄―――っ!」
李翔が叫ぶが、返事はない。そのとき、不安でいっぱいの鳴鈴の耳に、微かに獣の唸り声のようなものが聞こえた。
鳴鈴が振り向くと、李翔が走りだす。彼にも聞こえたのだ。身の丈ほどもある草をかき分けていくと、突然李翔が立ち止まった。
「徐妃さま、来ちゃいけない!」
そう言われても、急に止まれるわけはない。勢い余って両手を広げた李翔の胸に飛び込んだ。その肩越しに見えたものに、彼女は息を飲んだ。