恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
さっきと同じ、皇城の兵士の甲冑を着た遺体がごろごろとそこらじゅうに転がっている。馬は逃げてしまったのか、一頭も見当たらない。
風に煽られた血の匂いが鼻を突く。鳴鈴はまぶたをギュッと閉じ、李翔にすがりついた。
「誰も生きていないか」
李翔が声をかける。すると、がさりと何かが動く音がした。
「ああ……そこにおられるのは、もしや徐妃さまでは……」
名前を呼ばれ、ハッと顔を上げた鳴鈴。おそるおそる声の主を探す。すると、ある木の幹にもたれるようにしている、血みどろになった飛龍の側近の姿を見つけた。
「そうよ、私よ」
李翔から離れ、側近に駆け寄る。勇猛だった彼は微かに呼吸し、左目で鳴鈴を見た。右目は額から流れた血で蓋がされている。
「星稜王殿下に会いませんでしたか……。殿下は、城に戻ったはずですが……」
「いいえ、会わなかったわ。代わりに戟が落ちていただけ」
そう言うと側近は、残念そうに眉を下げた。
「なんと……」
「萩軍と衝突したの? それとも……」
尋ねる鳴鈴に、側近は短く答えた。
「裏切りに遭いました」
やはり。この兵士たちが城を出た途端、早々と飛龍を襲ったのだ。
悟った鳴鈴の胸を、怒りと恐怖が同時に襲いかかってくる。