恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
その日から、平穏な日々が夢だったかのように、王府の雰囲気ががらりと変わった。
男も女も、出陣準備に追われ、緊張感がみなぎっている。
鳴鈴は何もしなくていいと言われ、消化不良な毎日を送っていた。
「なんだか、一進一退といった感じですね」
部屋で暇つぶしに本を読んでいたとき、一緒にいた緑礼が呟いた。
「戦況のこと?」
「ではなく、殿下とお妃さまです。つい先日まで仲睦まじくされていたと思えば、また離れ離れ」
一向に距離は縮まらない。
緑礼はそこまで言わなかったが、鳴鈴も同じことを考えていたからわかる。
「仕方ないわよ。お勤めだもの」
こうして閉じこもってなにもしていないと、自分がすごく役立たずのような気がしてくる。鳴鈴は立ち上がった。
「お手伝いに行きましょう、緑礼」
「はい?」
「兵糧の準備とか、武具馬具の整備とか、いろいろとあるでしょう」
それのどれかひとつでも、みんなの邪魔にならない程度にできるつもりなのか?
そう言っているような緑礼の目つきを気にせず、鳴鈴は部屋を出ていった。
王府の人間は皆親切で、正直邪魔な王妃が訪ねてきても嫌な顔をせず、兵糧作りを手伝わせてくれた。
鳴鈴は余計なことを考えぬよう、ひたすら小麦粉とゴマなどをこねて丸めた。緑礼も一緒になり、鳴鈴が作る大小様々な兵糧丸の大きさや形を整えたのだった。