恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
いよいよ明日出陣という前夜、どうしても寝付けない鳴鈴は、外套を羽織ってとぼとぼと灯籠の灯りを頼りに庭を歩いていた。
「お妃さま、そろそろ中に入りましょう」
傍を歩く緑礼の声に生返事をし、ぼんやりと夜空を眺める。
今夜も、飛龍は臥所にやってこない。
(それどころじゃないのはわかっているのだけど)
鳴鈴の方からも、ここ数日は飛龍に近づいていない。彼は食事中も難しい顔をしていて、戦のことばかり考えているようだった。だから邪魔をしてはいけないと思い、無駄なおしゃべりは控えていた。
でも、ふと思うことがある。
こんなとき、愛し合っている夫婦ならどうするのだろう?
鳴鈴の想像では、しばらく離れ離れになる前の夜、お互いのことを忘れないように愛を確かめ合ったりするのではないかと思っていた。結婚前に読んだ恋物語ではそういう場面が多く見られた。
(殿下は私のことを嫌ってはいないようだけど)
大切にされているのはわかる。しかしそれは娘か妹に対するような接し方だ。
妃として強く求められたいというのは、過ぎたわがままなのか。もともと妃を必要としていなかった飛龍に嫁いだのだから──。