恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

(誰なの?)

賊は全部で十人はいる。たったひとりで立ち向かうのは無理だ。

賊の刃が振り下ろされた瞬間、思わず鳴鈴は目を瞑った。しかし──。

「うわああっ」

聞こえてきたのは、野太い賊の悲鳴だった。金属同士がぶつかり合う音が聞こえ、鳴鈴はおそるおそる目を開ける。

彼女の目に映ったのは、まるで剣舞のように華麗に剣を振るう男の姿だった。無駄な動きが一切ない。四方八方から押し寄せてくる敵の刃を受け、あるものは流し、あるものは跳ね返す。舞うように懐に入り込み、ぐるりと回転しながら切りつける。

「なんだと……!」

見惚れているうちに、男は賊たちを全員倒してしまった。と言っても殺したわけではなく、怪我を負わせて動けなくしただけのようだ。

「く、くれてやるっ」

「きゃあっ」

敵わないと悟ったのか、鳴鈴を投げだし、最後の賊は逃げ出した。動ける仲間が、それにぱらぱらと続いて駆けていく。

がしりと男のたくましい腕に支えられた鳴鈴は、ゆっくりと顔を上げた。

「あ……」

恩人の顔を間近で見た鳴鈴は声を失った。

きりりとした眉、切れ長の瞳に長いまつ毛。高い鼻に形の良い唇。眉目秀麗という言葉はこの男のためにあるのではないかと思うほどだ。


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