恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「飛龍にも色々と思うことがあるんだろう。あのことを、お前も忘れたわけじゃあるまい?」
穏やかな声でそう言われ、李翔は動きを止めた。そして、しゅんとうなだれる。
「それはもう忘れてください。李翔も気にするな。ほら、お前の可愛い宇春はどこだ? たしか鳴鈴と仲良くしてくれているんだよな……」
窓枠にもたれて外をのぞく。
(我ながら、話題転換が下手すぎるな)
しかし兄弟たちも、それ以上妃の話題は挙げなかった。李翔が近寄ってきて、指をさす。
「ほら、あれですよ。綺麗でしょう。朝から何度綺麗だと言ったことか」
庭にいた黄色い裙を着た女性に、李翔が勢いよくブンブンと手を振る。
(綺麗、か。たしかに)
弟が溺愛する妃はたしかに美しい。鳴鈴と同年とは思えないほど大人びている。いや、鳴鈴が幼く見えるだけか。
(可哀想……)
李翔の言葉が飛龍の頭の中でこだまする。
女性として愛してもらえず、綺麗だとも可愛いとも言ってもらえず、妃の中で肩身の狭い思いをして一生生きていく。その姿を想像すると胸が痛んだ。
(たしかに、それはあんまりだな)
気づけば目が勝手に、鳴鈴の姿を探していた。