恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「ここだ」
飛龍の懐から出てきた鏡を受け取った鳴鈴は、一瞬ほっとした。磨き込まれた鏡面は割れず、幼く見える顔を映し出す。
しかし、くるりとそれを裏返した鳴鈴は絶望した。龍の彫刻に、無残な傷がついてしまっている。
「あああ……」
隙間風のような声を出し、鳴鈴はうなだれた。
「せっかく殿下が私にくださったものなのに……」
髪飾りや衣装も大事だが、その鏡は特別だった。鳴鈴は龍と鈴が同居する、他の女性ならば喜びそうにないその鏡を見るたび励まされてきたから。
戦で離れ離れになっていても、ひとり寂しく寝る夜(つまり毎晩)も、それを見るたびに飛龍の存在が自分の傍にあるように感じられた。
「そんなに落ち込むことか」
「当たり前です」
鏡の傷をなでて涙目になっている鳴鈴に、飛龍は呆れたような視線を向ける。
「俺はそんなもの、どうなったっていい」
「ひどい!」
「お前が無事なら、他のものはどうなっても構わない。鏡はいくらでも作ってやれるが、お前は失ったら代わりがいない」
憤慨した鳴鈴が言葉を失う。すると、飛龍は腕を伸ばし、そっと鳴鈴を抱き寄せた。
「無事でよかった」
低い声が耳元で響く。鳴鈴の体温が一気に上がった。