恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「すまなかった。俺が太子妃の前で口を滑らせたばかりに、お前をひとりにさせてしまった」
やっぱり、太子妃は飛龍と自分が本当の夫婦になっていないことを、彼自身の口から聞いたのだ。だからあんなに自信満々に嫌味を言ってきた。そう鳴鈴は納得した。
「お前が池に落ちたときは肝が冷えた。辛い思いをさせてすまない。許してくれ」
鳴鈴を抱く腕に力がこもる。何故か鳴鈴の胸はちくりと痛んだ。
(許してくれ、だなんて……)
太子妃の言動には腹が立ったし、宇春に比べて子供っぽいままの自分が嫌で落ち込みもしたけど、飛龍を責める気はなかった。
それに、池に落とされたのは下手人のせいであって、飛龍は関係ない。
「謝罪なんてしないでください。私を池から引き揚げてくださったのは、殿下ですね?」
「ああ……」
飛龍の着物も宴のときよりだいぶ簡素で動きやすい胡服に変わっている。鳴鈴を助けるために池に入ったあと、着替えたのだ。
「殿下は私を助けてくださいましたわ。二度も」
「二度?」
飛龍が体を放す。怪訝そうな顔に、傷ついた鏡が差し出される。
「ね。殿下がいなければ私は死んでいました」
鏡の龍が身代わりになって自分を守ってくれた。鳴鈴はそう感じていた。
「ありがとうございます、殿下」