恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
微笑む鳴鈴に、飛龍は傷ついたような顔を見せた。眉が下がり、形のいい唇が歪む。
「礼なんて言わないでくれ」
彼はそれだけ言って口をつぐんでしまった。眉目秀麗な顔には濃い後悔の色が浮かんでいる。胸を締め付けられた鳴鈴は、思わず彼の袖をつかんでいた。
「私のお願いを聞いていただけますか?」
見上げると、飛龍は少し考えてからうなずく。
「なんなりと」
「ありがとうございます。では、早く星稜王府に帰りとうございます」
皇城や都には、様々な人の思惑が蠢いている。恨みや妬み、権力争いや略奪。
きらびやかに見えて、そのぶん人の奥底が見えなくて怖い。味方だと思っていた人物さえ疑ってかかりそうになる。
「……そうか。そうだな。明日の朝まで休んだら、すぐに帰ろう。下手人探しを警吏に任せておくのは心もとないが」
飛龍は怒りがおさまらないらしく、「下手人」と口に出した途端、鬼のような顔をする。
「それにしても、どうして私が狙われたんでしょうか。私を殺して、誰が利益を得るのか……」
ふと口をついた疑問が、鳴鈴自身を悩ませる。