恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
主人の間に入った鳴鈴を待っていたのは、普段着の両親だった。父は皇城へ出勤する時は黒い袍服につばさを広げた襆頭(ボクトウ)を着けていくのだが、屋敷にいるときはゆったりとした漢服を纏っている。
「お呼びでしょうか、お父様」
挨拶をした鳴鈴に向かいの席に座るように促すと、父は早速本題を切りだした。緑礼は鳴鈴の後に立っている。
「呼びだしたのは他でもない。とうとうそなたにも縁談が来たのだ。めでたいことだ」
「えっ……」
にこにこと微笑む父の顔を、鳴鈴は大きな目をますます大きくして見つめ返した。
この崔(サイ)の国では、幼い頃から許嫁がいるのも珍しくない。ほとんどの女子は十五から縁談が来はじめる。だが鳴鈴には十八になる今まで、縁談が来た試しがなかった。
焦り始めた父があちこちに自分の姿絵を持っていき、見せて回っているのは知っていた。けれど現実に忠実に描かれたそれは、世の男性の興味を引けなかったようだ。
原因は鳴鈴の見た目だ。小さい顔、大きな丸い目に主張しない鼻。背は低く、胸は薄い。そのせいで実年齢よりも若く見えてしまう。