恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
帰りの馬車の中で、鳴鈴は緊張していた。
なぜかというと、先日まではどこに行くにも馬でさっさと先頭を走っていた飛龍が、同じ馬車に乗っているからだ。
小さな空間の中に向かいあって座ると、飛龍のあぐらをかいた膝と鳴鈴の膝がぶつかりそうになる。
(責任を感じていらっしゃるのかしら)
鳴鈴が池に落とされたのは、自分が彼女をひとりにするような発言をしたからだと、飛龍は思っているらしい。
「宇春が、今度あちらの王府に招いてくれるそうです」
「ああ、帰り際にそう言っていたな」
沈黙に耐えられない性質の鳴鈴が口を開くと、飛龍は言葉少なに応じた。
「鄭妃といると楽しいか」
「ええ。宇春と一緒にいるととても明るい気分になれます」
「いい友人ができてよかった。お前が鄭妃のもとへ行くときは俺も同行しよう」
鳴鈴は驚いた。今までの飛龍なら、「勝手に行ってこい」と言いそうだったから。
「そんなに過保護にならずとも、大丈夫ですよ」
李翔の治める魁斗(カイト)は皇都からそれほど離れていないとはいえ、先日の下手人が魁斗王府まで来るとは、鳴鈴には思えなかった。