恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「下手人のことだけじゃなく、色々と……目が離せないんだよ、お前は」
楊太子妃に嫌味を言われたことまで気にしているのだろうか。
(目を離したすきに誰かにいじめられ、ぽつんと一人になっていてはまた狙われると?)
鳴鈴は妙に感心してしまった。いつの間にか、本当の娘のように思われているようだ。
会話が途切れたとき、ちょうど馬車の外が騒がしくなってきた。
星稜王府に帰るには、皇城の周りをぐるりと囲む皇都の街中を通っていく。
地方の村と違い、皇都は活気づいているようだ。見世物小屋の呼び込みや、若者たちがにぎやかに話す声が聞こえてくる。
そのうち、風に乗ってやってきた芳ばしい香りが鳴鈴の鼻をくすぐった。胃が素直にぐううと音を出す。
「……腹が減ったのか?」
「い、あっ、いいえ」
咄嗟に否定する鳴鈴だったが、その言葉に被さるように再度腹から音がなった。
恥ずかしさで体が縮まってしまいそうになる。宮廷の豪華な朝食をぺろりと平らげてから、さほど時間は経っていないというのに。
「少し停まろう」
笑いをこらえるような顔で飛龍が言った。彼が簡易的な窓から顔を出し指示すると、すぐに馬車は停まった。