失礼ですが、強い女はお嫌いですか?
リリエラは昼間、教師として子供達に勉強を教えている。と言っても、そんなに大それたものではない。
またまだ子供を一人の労働者として扱う家庭が多いエデリの町では、王都のように子供は勉強をするのがお仕事と声高らかに宣言できる状況ではない。
家族の手伝いの合間に勉強をするという子がほとんどで、そんな町に大きな学校ができるはずもなく、校舎とは名ばかりの古い建物に子供を集め、学長先生とその奥さん、そしてリリエラが読み書きや計算、歴史などを教えているのである。
「リリエラ先生、昨日、私ね、先生に教えてもらった挨拶をしたら、お客さんに誉められたの!」
「それは凄いわ! ルーはとても上手だったものね」
「またマナー教えてね!」
そう言ってルーと呼ばれた少女は、右足を左足の後ろに置き、両手でスカートを軽く摘まむと、姿勢を伸ばしたまま膝をおる。辛い体勢であろうにふらつくこともせず、どうだ、と言わんばかりの表情を浮かべる少女を見て、リリエラはふっと柔らかな笑いを漏らした。
幼き頃の記憶が蘇り、とても懐かしい想いにかられたのだ。
リリエラも少女と同じように、初めて所作を誉められた時、一目散に両親に披露した。
少し自分が大人に近づいた、そんな気がして胸が高鳴った。
ーーけれど、それは本当に『気がした』だけだった。