未完成のユメミヅキ
◇
「バスケ部の先輩達に喧嘩売っちゃったから、わたしたち、しばらく練習見に行くの、控えたほうがいいかもね」
「うーん……喧嘩を売ったわけじゃないんだけれど、仕方ないかぁ。亜弥、ごめんね」
「なんで謝るのって」
彼女は体育館に行きたいと思う。でも、わたしが飛び出しちゃったからなぁ。
「本当は、わたしがぶん殴りたいところだったよ。教科書がたくさん入った鞄で前かから後ろから」
「亜弥、怖いよ」
「冗談よ。まふが、ばかって言ってくれてスッキリしたよ」
安心した。とはいえ、やはり、男バスの練習を見に行けないとなると、楽しみがひとつおあずけ状態ということで、正直、つまらないなぁと感じる。巻き添えを食っては悪いので、タロちゃんにはバスケ部の先輩達のことを伝えた。
怒られるんじゃないだろうかとドキドキしたけれど「そんなの平気。和泉がいて良かった」と笑ってくれた。
あの先輩たち、和泉くんに「最高に格好悪い」と言われたのが響いたのだろうな。タロちゃんにはなにもしていないみたいだ。ホッとする。
それから、数日経過した。
家で、テレビを見ながら夕飯を食べていると、亜弥からメッセージが入った。
『まふ、明日の日曜なにしてる? わたし、甘いものが食べたい』
『亜弥、いっつも甘いもの食べたいんじゃないの』
それなのに太らないから、神様って不公平。
『ほら、春にオープンした駅前の店に行きたいねって言ってたじゃん』
ロールケーキのお店がオープンしたと、町のフリーペーパーに掲載されていたのを見て、行きたいと盛り上がったことを思い出す。
『夕方からお花があるから、それまでで悪いんだけど』
『そんなの気にしないで。いいね、行こう』
日曜日に習いごとが入っているのも、お嬢様は大変だなと思ってしまう。亜弥は小さい頃から他にも習いごとをしていたけれど、長続きしなくて辞めてしまったと言っていた。
華道だけ、好きで続けているらしい。
明日は美味しいものを食べに行くか。亜弥と出かけるのは久しぶりだった。ワクワクする。
習い事へ行く亜弥と分かれたあとは、駅前の本屋やショッピングセンターでも見てこようかな。
高校に入学したばかりでなにかと気忙しくて。
中学へ上がったときもそうだったけれど、どうやらわたしは環境が変わって生活リズムを整えるのが苦手らしい。
朝起きる時間も変わったし、帰りの時間も変わった。勉強に付いていかないといけないと緊張するし、帰ってからは、宿題をするため誘惑に負けないように張り詰め、気持ちが疲れてしまう。
クラスメイトは、タロちゃんと亜弥意外には接するときにまだちょっと緊張してしまうし。
あとは、和泉くんのこと。これは完全に自分だけのことではあるけれど。
もうすぐ6月になる。晴れの日も続いて過ごしやすい天候が続いていた。亜弥と出かけるのは、良い気分転換になるはず。
「ねぇ、お母さん。明日、亜弥と出かけるね。新しくオープンしたロールケーキ屋に行くんだ」
お母さんに話しかけると、笑顔が返ってきた。
「あらいいわね。じゃあ、お土産買ってきて欲しいな。月曜日、お客様があるのよ」
「お土産買ってくるよ」
「そうね。お父さんも喜ぶし」
リビングにある家族写真を見ながら、お母さんが笑う。
「そうだね。お父さんの甘い物好きも、相変わらずだね」
「種類は、麻文に任せるわ。お金は明日、用意しておくから」
「うん」
夕食の後片付けをして、明日の準備をしようと部屋に戻った。
なにを着ようかなとクローゼットを開けて、ワクワクしながらあれこれ洋服を引っ張り出した。