未完成のユメミヅキ
「いらっしゃいませー」
レジにいる、白いパティシエ服に水色のスカーフ姿の店員が笑顔を向けてくれる。40代くらいだろうか。綺麗なひとだ。
「20円のお返しになります。ありがとうございました」
会計を済ませた客がわたし達と入れ違いに出て行った。
ショーケースには1本まるごとのロールケーキ、カットされているものが並んでいた。マドレーヌとフィナンシェ、2種類の焼き菓子もある。
甘い香りについうっとりとなってしまった。
「わぁ。どれにしようね」
「全部食べたいねぇ」
亜弥と顔を並べて、ケースをのぞいていると、後ろから別の店員に声をかけられた。
「いらっしゃいま、せ……」
声に振り向くと、そこには予想外の人物が立っていた。
「え!」
「あ、え!」
彼も同じように驚いて、目を丸くしている。
「和泉くん……」
立っていたのは、和泉くんだった。
お店の外観とお揃いのようにアイボリーのエプロンと、白いシャツに水色のスカーフ。エプロンには『USAGI』と刺繍されている。
驚きの表情を解いた和泉くんは今度、困った顔をしている。忙しいひとだ。
「バイトしてるんだよ。ここ、おばさんの店なんだ……」
「おばさん?」
「そ。母さんの妹」
和泉くんはレジに立つ女性を指さす。
「うっそ」
「学区内だし、そのうち知り合いに会いそうだと予感はしていたけれど」
そりゃそうだ。駅だって学校最寄りからふたつしか離れていない。この住宅地にも生徒の家がありそうだし。
和泉くんは、わたしのうしろにいた亜弥にも頭を下げた。
「どうも」
亜弥はわたしの背中を突いている。突かれても、わたしにどうしろというのか。
「あの、ええと、このお店をね、フリーペーパーで見て行きたいねって言っていて、亜弥と一緒に来たんだ」
「そうなんだ。いらっしゃい……あ、こっちどうぞ」
和泉くんは、恥ずかしそうな様子で、奥のカフェスペースへ促してくれた。
真新しい二人掛けの木製テーブルセットと3つとカウンター3席。わたし達は窓際の席に案内されて、座った。
「ケーキセットはシングルとダブルがありまして、ダブルはプラス200円でお好きなロールケーキ2個になります。ドリンクはこちらからお選びください。コーヒーの単品も頼めます」
説明が板についている。オープン当初からここで働いていたのだろうと分かる。
ケーキをダブルにしたいところだけれど、カロリーが凄いことになりそうなのでシングルにする。
「じゃあ、ブレンドとロールケーキは……プレーン」
「わたしは、カフェオレといちごのロールにしようかな」
「かしこまりました」