未完成のユメミヅキ
和泉くんは普通に注文を取って、奥へ行ってしまった。少々物足りなさを感じなくもない。とはいえバイト中だもの、邪魔は出来ない。
「なにこれ変な気分!!」
聞こえないように、亜弥に小声で伝えた。彼女は笑っている。
「まさか、和泉くんの御親戚のお店だったとはね」
「びっくりする」
「会えてよかったじゃないの」
それは、たしかにそうだけれど。亜弥はメニューを見ながら微笑む。
「コーヒーも拘っているんだ」
「亜弥はコーヒー好きだから、良かったね」
亜弥の味覚は大人だと思う。わたしは、ブラックは飲めないけれどミルクたっぷりカフェオレなら好き。
しばらくすると、トレーを持った和泉くんが戻ってきた。
「ケーキセットでございます」
亜弥の前にブレンドのセット、カフェオレのセットをわたしの前に置いてくれた。
クリームたっぷりのロールケーキだ。口の中で涎が迸る。亜弥のブレンドコーヒーと自分のカフェオレからもいい香りがする。
「ごゆっくり。なにかあったら向こうにいるので声かけて」
「あ、あっ」
「え?」
去ろうとする和泉くんに向かって、条件反射みたいに声を出してしまった。亜弥が変な顔をしている。
「あっ、お土産! お母さんにお使いも頼まれたの。あとでロールケーキ、買って帰るね」
「そうか。季節限定のものもあるから、どうぞ選んでいってください」
そう言うと、和泉くんはまた奥へ行ってしまった。
「下心見え見えだよ、まふ」
「だ、だって……」
「本当にびっくり。まさかここでバイトをしていたなんて」
本当、驚きだ。
嬉しさと緊張でそわそわと和泉くんが行った方向を何度も見てしまう。
亜弥は、にやにやしながらケーキを口に運んだ。わたしも、カフェオレをひとくち。いい香りとまろやかなミルクとコーヒーの苦みが口に広がった。
「ケーキもコーヒーも美味しい。幸せ」
「最高。頂点。極上」
表現の乏しいのも気にせずに思いつく言葉を言いながらケーキを頬張った。
本当に美味しい。クリームの甘さは控えめで、薫り高いいちごの酸味と甘さがを邪魔しなくていい。生地も程よく厚く、弾力があって、且つ、ふかふかだ。
「3個は食べられるね」
「たしかに。体重さえ気にしなければ」
「1本丸ごと食べたいなぁ」
「亜弥は太らない体質だから羨ましいわ」
あとひとくちで食べ終わってしまう悲しさ。
それをえいっと口に送り込んだ。名残惜しく咀嚼してカフェオレで流し込む。