未完成のユメミヅキ
「ごちそうさまでした」

 いまの様子を見ていたのか、そこへ、和泉くんがなにやら用紙を持って来た。

「これ、いまお店にあるやつ。1本のものとカットタイプがあるよ」

 その用紙はロールケーキの一覧だった。5種類のロールケーキと、季節限定の1種類。
 全部食べたいところだけれど、お母さんにそんなに大量には頼まれていない。
 値段を見ると、貰ったお金で5個買える。

「カットタイプでいこう。来客があるそうなの」

 わたしは立ち上がり、ケースの前まで行った。和泉くんもついて来てくれた。
 和泉くんの叔母さんが、にっこり微笑んで和泉くんに向かって「お友達?」と聞いてきた。

「うん。同級生なんだ」

 和泉くんのその返答に、少しほっとしたような、くすぐったいような気持になる。和泉くんの中の、友達と同級生枠に入っていて良かった。

「彼女?」

 叔母さんがキラーワードをぶち込んできたので驚く。思いっきり手を横に振ってしまった。否定の意味で。

「違いますよ。アッハッハ」

 だって、違うもん。そんなの、畏れ多いです。

「……カット、買って帰りたいんだって」

 変な空気になってしまったのを断ち切るようにして、和泉くんは話題を変えた。
 叔母さんはなんかこう、自由な感じがする。

「あら、ごめんなさいね。なににしましょうか」

 季節限定のさくらんぼは決めている。あとはさっき食べたいちご、チョコ、マロン、抹茶……。

「これとこれ……本当は全部食べたいけれど」

「まぁ、ふふ。詰め合わせにしますから、ちょっとお持ちくださいね」

「座ってて。用意できたら、持っていくから」

 そう和泉くんが言ってくれる。
 そういえば、亜弥を置き去りだった。振り向くと、テーブルで怖い顔をして携帯をいじっている。品物を和泉くんにお願いして、テーブルに戻った。

「お土産、決まったの?」

「うん。ごめんね放置して」

「わたしも買って帰ろうかなぁ」


 亜弥は頬杖をついてコーヒーをひとくち。ロールケーキが並ぶケースのほうをちらりと見た。

「でもさ、なんか雨降りそうなんだよ」

「え?」

 窓の外を見てみると、あんなに晴れていたのにいまは空が灰色だ。いまにも降り出しそう。ロールケーキと和泉くんに気を取られている間に天候が変わってしまった。

「天気予報の確認はしていないし、傘も持ってないよ」

「晴れときどき雨って言っていたけれど、わたしも持ってない」

 亜弥が口を尖らせた。
 そこへ和泉くんがビニール袋を持って来た。カットタイプの詰め合わせをしてくれたものだった。

「お待たせしました。なんか、雨が降りそうだからビニール2重にしておいたけど」

「ありがとう。そうなの、なんだか急に曇って」

「あ、降ってきた」

 亜弥が言ったので、外の地面を見ると雨粒がコンクリートに染みを作って、みるみるうちに濡れていった。けっこう雨足が強い。



< 37 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop