未完成のユメミヅキ
「和泉くんの心のなかも、全部は分からない。辛さも分からないよ。分からないから人間なんだよ。でも、和泉くんがバスケを好きだってことだけは分かるよ」

 夢が、ふたりを繋いだのだと、わたしは信じたかった。

 どうすればいいのか、まだ分からないけれど。

「死んだ父さんの分までがんばろうと思っていた。プロになって仙スパに入るのが夢だった。でも、母さんも大事で、夢も諦められなくて」
 
 ずっと一生懸命だったひとが、目の前で辛くて震えている。どう言えば、どうすれば、悲しみは止められるのだろう。

「みんな、和泉くんのこと待っているの」

 現実は残酷で、16歳の自分たちには、どうすることもできないこともある。でも。

「わたしも、ずっと見ているから」

 どう言えばいいのか分からない。でも、正直な気持ちを伝えたい。

「和泉くんの、いちばんのファンだから、わたし」

 拳をあげて笑ったら、和泉くんも笑ってくれた。涙をこぼしながら「変なの」と笑ってくれた。
 その笑顔が眩しくて、胸がとても痛くなる。

「まふちゃんのこと、泣かせてばかりでごめん。傷つけてばかりでごめん」

 傷ついても、心配で仕方なくても、わたしはもう泣かないよ。あ、少しは泣くかもしれないけれど、すぐ泣きやむつもり。

「和泉くんを、見ていたいよ」

 そばにいたいよ。守って貰うんじゃなくて、支えになりたいんだよ。そう強く思う。
 いつか、きちんと言えるだろうか。

「俺が泣かないようにとか、勘弁してくれよ。俺は男だぞ。女の子に守って貰うとか、格好悪いだろ」

 和泉くんの言葉に驚いた。口に出していないのに、心が漏れ出てしまったのだろうか。

「俺のこと、見ていて欲しい。だめになりそうだったらケツ叩いて欲しい」

 和泉くんは、涙を拭って立ち上がる。

「俺の夢は『仙台sparrows』の天田和泉になること」

 風が吹いた。夏の香りを孕んでいた。
 見上げた彼の顔は、とても凛々しくて、大きな目は真っ直ぐ前を見ていた。初めて見たあの写真のまなざしだった。


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