未完成のユメミヅキ
「帰ったら母さんに話す。そして、分かって貰えたら」

 深呼吸は、まるで体の中の空気を入れ換えるよう。

「明日、バスケ部に入部届け、出すよ」

 ふたりのまわりにある空気が震えたように感じた。和泉くんの思いと決心が一本になった。その瞬間だった。

「うん」

「いろいろ、ごめん」

「仙スパ選手とのあの時間が、和泉くんを変えたんだね」

 バスケへの忘れられない情熱は、簡単に消えるものじゃなかった。

「あれもあるけれど、まふちゃんの気持ちも嬉しかったか、ら」

 最後の方はちょっと聞き取りにくかったけれど、そんな風に言ってくれるなんて、夢みたいだ。

 心の底から、嬉しかった。
 声援を受け、風のように走って、空中で止まるジャンプ。そしてシュートを打つ。そんな彼をまた見ることができるんだ。

 嬉しくて、また涙が溢れる。泣くなってば。和泉くんがそう言って、わたしの頭をくしゃりと撫でた。


「明日じゃなくて、いま出せ! いま!!」

 突然浴びせられた大声に振り向くと、タロちゃんがジャージ姿で立っていた。息を切らしている。和泉くんが、わたしの頭から手を離した。

「小谷がっ、お前がまふと話してるっていうから……」

 タロちゃん、顔が赤い。頭を撫でられているところとか、きっと見られた。もうだめだ。

「タロも盗み聞きかよ! この中学同級生グループそういうの多くね?!」

 和泉くんも、人聞きの悪いことを言わないで欲しい。というか、これは完全に全員が小谷先生の策略に全員がはまったのだろう。

「なに俺、外堀埋められてここまで来た?」

「違うよ、和泉くんの決心だから、そんなこと思わないで」

 慌てて宥めると、和泉くんは苦笑して「冗談だけど」と言うのでほっとする。驚かせないで欲しいんだけど。


「おい、そこにもひとりいる!」

 突然、和泉くんが叫んだ。ひょっこり顔を出したのは、亜弥だった。

「ええっ! 帰ったんじゃないの、亜弥!」

「亜弥かよ!」

 タロちゃんも驚いている。

「や、やっぱり練習を見たくて来たら、なんかここ取り込んでいて!」

 亜弥はわたしと和泉くんを交互に指さす。真っ赤になって笑っている。

「うそ、聞いていたの? どこから? 信じられない。なんなの」

 自分の顔が赤く染まっていくのも分かる。信じられない。亜弥まで巻き込まれている。

「天田一俊。仙スパのエースだったんだぞ、から」

「だいぶ最初のほうじゃん! もお、亜弥ぁ!」

「ごめんって」

 女子ふたりがキャアキャア騒いだところを、男子ふたりは頭を掻きながら見ている状態だった。

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