未完成のユメミヅキ
「ちょっとタロちゃん」

 和泉くんを困らせないで欲しい。仲がいいとはいえ、彼をいじめるのは許さないぞ。

「ていうか、タロちゃん。いい加減、正直に気持ちを言ったらどうなの。もういますぐ!」

「なんだと!」

 タロちゃんにそう言うと、彼は顔を真っ赤にして叫んだ。そうだ。この場を収めるには、それしかない。

「和泉くんに、入部届けいま出せっていうなら、タロちゃんは、いま亜弥に! ハイどうぞ!」

 手を打ち合わせ、再度、ハイ! と言った。

「お前マジふざけんなよ」

「ふざけてない。わたしは大真面目よ」

 タロちゃんは頭を掻きながら、亜弥へ近寄って腕を掴んだ。

「……亜弥、ちょっと」

「え? なに。なになに!」

 亜弥のことを、体育館の裏へ引っ張っていった。

 よし。任務完了だ。これで丸く収まる。亜弥だって、タロちゃんのことずっと見ていたのは分かるんだから。意地でも好きだなんて言わないんだけれど。


「なに? どういうことなんだよ」

 和泉くんが唖然としていた。

「どういうことって、ああいうこと。わたしは知っていたもん。ふたりともはっきりしないなぁと思っていたの」

 高校も一緒にしたくせに煮え切らないんだもの。だから、ふたりに進展があってとても良かったと思っている。

「俺はてっきり、タロはまふちゃんのことを好きなんだと思って……だから」

「それはなんか、とんでもない勘違いを……。ご覧の通りです」

 タロちゃんと亜弥が消えた方角を指さすと、和泉くんは頷いた。

「キーホルダー、ごめん。なんか変なこと言っていたけれど。タロが」

「ああ、うん」

「気にしなくていいから」

 和泉くんは顔を真っ赤にしている。
 気にしなくていいからなんて言われても、もう無理。

 タロちゃんに、やきもちを焼いた。和泉くんが? いつから?
 わたしがタロちゃんを好きなんて、変な勘違いをしていたのかな。聞きたいけれど、聞けない。これから聞く機会があるのか分からないけれど。

「その……」

 小さく呟いた和泉くんの言葉の続きを待った。消えそうな声だった。

「タロに、中学の修学旅行かなんかの写真、見せて貰ったことあって」

「え、そうなの?」

「俺、まふちゃんの顔、知ってた」


 なにそれ。初めて出会ったとき、ふたりとも、知っている顔の実物を見たってことなの。
 こんな遠回りなこと、あるのかな。

 そのあと、顔を真っ赤にしたあとね。ふたりで大笑いをしたんだ。



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