未完成のユメミヅキ
◇
「がんばってね。和泉くん」
何度言ったか分からないその言葉をまたかけて、彼に手を振った。
「じゃあ、行ってくる」
和泉くんは形のいい目をきゅっと細めた。そして、胸の前で拳を作る。手の中にはわたしが作ったキーホルダーを握っている。
「魔法かかってるから、このお守り」
「そうだな。ありがと」
もう一度握って、唇をつけたあと、スポーツバッグに戻す。
和泉くんは、海英の男子バスケ部に入部した。毎日、練習に忙しい。
「母さんも涼子さんも、がんばれって。辞める必要なんかどこにもないって言ってくれたよ」
目をキラキラさせて言うから、こっちも笑顔になる。本当に嬉しいんだな。
「よかった。嬉しい」
「また、店に来てよ。俺、部活がないときはバイト続けることになったし」
中学時代、エースだったとはいえ、彼が練習をしていなかった間ほかの部員はみんながんばっていたのだから、急には第一線に出されないと思う。それは和泉くんも分かっていることだっった。
けれど今日、入部して初めて練習試合に出ることになった。
インターハイ地区予選のスタメンへのアピールもできるものだから、大事な試合だ。
「やっぱり、和泉には入って欲しいよ。あいつは即戦力で出すべき」
タロちゃんは興奮気味で話していた。隣にくっついている亜弥も頷いている。
「視野も広いもんね。後ろに目がついているみたい」
「やっぱ分かる? 亜弥さすが」
ふたりで見つめあう。
「……勝手にしてよ、もう」
ここにわたしがいてもいなくても関係ないのだろうな。微笑ましいし、嬉しい。友達としては、ふたりがやっとつき合うようになって、心から祝福をしている。