未完成のユメミヅキ
「和泉くんとは?」
亜弥にもタロちゃんにも聞かれるけれど、いますぐどうこうという話はない。
だけれど、わたしは彼のいちばんのファンで、そばにいたいと思っている。ちゃんと、いつか伝えたいなと思う。
今日の練習試合、和泉くんが思うようにプレイできますように。
小谷先生の目に留まるような活躍ができますように。
怪我をしませんように。
きっと、あの天田和泉だって知れているだろうから。
和泉くんのスポーツバッグにぶら下がるキーホルダーをきゅっと握った。
お父さんには効かなかった。わたしの思いも叶えられなかった。けれど、その分、大事なひとの思いを繋げて欲しい。和泉くんの夢を叶えるの。彼を、守って欲しい。
未完成のわたしたちは、少しずつ、前に進む。
和泉くんが笑顔なら、わたしはがんばれるよ。
乗り越えていく壁はたくさんあると思う。思い出は歳を取らない。だから悲しみに沈む夜もあるかもしれない。
でもね。
きみの笑顔があれば、それがわたしの存在理由。生きる意味になる。
ホイッスルが、体育館に響く。
大きな歓声の中、彼はボールを追いかけて、走り出した。
了


