未完成のユメミヅキ
「勉強お疲れさま。お先しちゃったわよ。お父さん今日も残業だそうだから」
お母さんの言葉に、適当に相槌を打つ。
「ねぇお母さん。大きめのヒートン持ってない?」
「え? キートン?」
「違う、ヒートン。手芸で使うヤツ」
「ああ、ネジの先が丸くなったやつね。いま探してくる」
席を立って、隣の部屋に探しにいってくれた。お母さんも手芸をするから、手持ちの材料の中にあるかもしれない。
お母さんはすぐに戻ってくる。
「この中に無ければ、無いなぁ」
年季の入った裁縫箱にいろんなものが入っている。わたしの裁縫セットの内容量の倍はある。ビニール袋と小物が入ったケースを出しながら「ここじゃないなぁ」「これも違う」と言っている。
「お母さん、お父さんやあなたの服の繕い物や裾上げとかが多いから、麻文みたいに手芸パーツ使ったりしないんだよね」
「そっかぁ。無いか」
がっかり。肩を落とすわたしの鼻を、お母さんは人差し指で押す。
「あなた、課題をやっていたんじゃないの? ヒートンが必要な課題ってなによ」
「あっ!」
「嘘つけないなぁ。なに、手芸していたの?」
「……うん」
さすが母親である。即バレてしまった。
「まだかかるの?」
「ううん。後処理と、ヒートンがあれば完成するの」
「じゃあ明日、お母さん仕事の昼休みに近くのお店で買ってきてあげるから、今日はもう夕飯食べちゃいなさい。無い物を待っていても無理でしょ」
時計を見ると、20時を回っていた。いまから買い物なんて行けない。
お母さんは商店街のスーパーで働いている。まわりにいろいろお店があるから、こういうとき、大変助かります。
「ありがとう~恩に着るよう」
「なにを作っているの?」
「教えない」
「あ、なんで!」
お母さんは冷蔵庫からお皿を出してレンジに入れながら、口を尖らせた。
「え~お母さんも欲しいなぁそれ。なんだか知らないけれどぉ」
和泉くん用のだから、量産できないから。それにお母さんはバスケットボールのお守りキーホルダーいらないでしょうが。出場するような試合も無いし。
「お母さんには、あとで違うもの作ってあげるよ!」
なんとか聞き出したがるお母さんを交わしながら、温まった肉団子を口に放り込んだ。
ひと仕事したあとのご飯は美味しい。
どうやって伝えよう。教室に行くわけにも行かないし。
それにしても、いままですれ違っていたのかもしれないのに。鈍感で気付かなかったのかな。でも、明日からはもし会えば、挨拶もできる。それも嬉しい。
「なにニヤニヤしているの。早く食べちゃいなさい」
「ふおーい」
手先は器用で手芸は得意だけれど、こういうこと不得意なんだよなぁ。
難しい。難しいけれど、ひとを大事に思うことって素敵だと思う。亜弥のことも、タロちゃんのことも。和泉くんのことも。
和泉くんはまだ、わたしのことを友達だと思っていないかもしれないけれど。
そう考えると、この気持ちには続きがあるのだろうかと、ちょっとだけ胸が痛くなった。痛いのはなぜなのか、分からないまま、肉団子を飲み込んだ。
お母さんの言葉に、適当に相槌を打つ。
「ねぇお母さん。大きめのヒートン持ってない?」
「え? キートン?」
「違う、ヒートン。手芸で使うヤツ」
「ああ、ネジの先が丸くなったやつね。いま探してくる」
席を立って、隣の部屋に探しにいってくれた。お母さんも手芸をするから、手持ちの材料の中にあるかもしれない。
お母さんはすぐに戻ってくる。
「この中に無ければ、無いなぁ」
年季の入った裁縫箱にいろんなものが入っている。わたしの裁縫セットの内容量の倍はある。ビニール袋と小物が入ったケースを出しながら「ここじゃないなぁ」「これも違う」と言っている。
「お母さん、お父さんやあなたの服の繕い物や裾上げとかが多いから、麻文みたいに手芸パーツ使ったりしないんだよね」
「そっかぁ。無いか」
がっかり。肩を落とすわたしの鼻を、お母さんは人差し指で押す。
「あなた、課題をやっていたんじゃないの? ヒートンが必要な課題ってなによ」
「あっ!」
「嘘つけないなぁ。なに、手芸していたの?」
「……うん」
さすが母親である。即バレてしまった。
「まだかかるの?」
「ううん。後処理と、ヒートンがあれば完成するの」
「じゃあ明日、お母さん仕事の昼休みに近くのお店で買ってきてあげるから、今日はもう夕飯食べちゃいなさい。無い物を待っていても無理でしょ」
時計を見ると、20時を回っていた。いまから買い物なんて行けない。
お母さんは商店街のスーパーで働いている。まわりにいろいろお店があるから、こういうとき、大変助かります。
「ありがとう~恩に着るよう」
「なにを作っているの?」
「教えない」
「あ、なんで!」
お母さんは冷蔵庫からお皿を出してレンジに入れながら、口を尖らせた。
「え~お母さんも欲しいなぁそれ。なんだか知らないけれどぉ」
和泉くん用のだから、量産できないから。それにお母さんはバスケットボールのお守りキーホルダーいらないでしょうが。出場するような試合も無いし。
「お母さんには、あとで違うもの作ってあげるよ!」
なんとか聞き出したがるお母さんを交わしながら、温まった肉団子を口に放り込んだ。
ひと仕事したあとのご飯は美味しい。
どうやって伝えよう。教室に行くわけにも行かないし。
それにしても、いままですれ違っていたのかもしれないのに。鈍感で気付かなかったのかな。でも、明日からはもし会えば、挨拶もできる。それも嬉しい。
「なにニヤニヤしているの。早く食べちゃいなさい」
「ふおーい」
手先は器用で手芸は得意だけれど、こういうこと不得意なんだよなぁ。
難しい。難しいけれど、ひとを大事に思うことって素敵だと思う。亜弥のことも、タロちゃんのことも。和泉くんのことも。
和泉くんはまだ、わたしのことを友達だと思っていないかもしれないけれど。
そう考えると、この気持ちには続きがあるのだろうかと、ちょっとだけ胸が痛くなった。痛いのはなぜなのか、分からないまま、肉団子を飲み込んだ。