暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
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「今……何と仰いましたか………?」
私は兵士を阻むように目の前に立っている護衛の騎士様に思わず聞き返した。
だって……その名が。
しかし、そんなはずはない。
何年も前に連れ去れたが、一度も探しに来たような情報は得られなかったし、何年も経過し私も大人になった。
家族は私を忘れているはずだと何となく思った。
探してきてほしい。でも向こうは私の事を既に諦め忘れているかもしれないと。
そう思っていた時に偶然こんなことがあるだろうか。
いや、ない。
これは幻聴だ。
「私は確かにジル・ギャビンですが、残念ながら貴方様がお探しの方ではないと思われます」
答えを聞く前に自ら話す。
期待してはいけない。
期待してしまったら、希望を抱いてしまう。
だから……いつものようにただ平常心でいればいい。
顔に出さず完璧の侍女を演じればいつも通りになる。
そう思っていたのに。
「………そんな事はない。大きくなろうがやっぱり分かる。君はずっと探していた妹だ……」
「違います。人違いです」
「違わない。やはり家族だから分かる…!!小さい頃は泣き虫で少しの事でも良く泣きついてきた可愛い妹だ」
そう言って見せてきたのは少し古びた手作りの小さなクマ人形のキーホルダーだった。
これは……私がよく持っていたのだ。
「ギャビンあんな可愛らしい物を持っていたのか」
「陛下…あれは恐らく妹の形見か何かですよ」
「いや、妹は目の前にいるんだから形見は可笑しいのでは?」
端の方でボソ……ッとそんな声が聞こえるが、兄と思われる騎士様は耳にも入っていない様子。