暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
「………………へい………か」
「痛むとこなど、どこもないか?」
「………………はい。私は平気でございます」
久しぶりに聞く声………。
ただ声を聞いただけなのに、不思議と涙が出てきてしまう。
「どうした?どこか怪我でも……っ」
「…………いえ、ただ嬉しくて涙が出てしまったようでございます」
「嬉しくて涙が……?」
さっきまで絶望を味わっていたから、急に安心して涙が出てしまったのもあるけれど、
変わりない陛下の姿を見れただけでただ嬉しくなる。
「…………陛下はどこもお身体を崩されておられませんでしたか?」
久しぶりに見る陛下はいつもと変わりないように見えるが、念の為聞いてみる。
恐らく長旅でここまで来るのに疲れているはずだ。
もしどこか具合が悪いのであれば、ここで治すことだって出来る。
しかし対する陛下はそんな私を見て何故か軽くため息をついた。
「へ、陛下…………??」
もしや何かやらかしてしまっただろうか?
それで呆れられてしまったとか………っ!?
急な不安に駆られ先程の言動について思い出してみるが、特に可笑しな点は思い当たらない。
………となれば、何故私はため息をつかれたのだろう?
疑問に思いつつ首を傾げ、陛下の方をジッと見つめていると、再びあのため息をつかれてしまった。
更に疑問を抱く。
「そなたはいつも自分より先に人の事を心配をする………。しかし、それがそなたの良いところでもあるのだが」
そう言って苦笑をしつつ、冷えきった私の手を陛下はご自身の大きな手の平で包み込むと、そこから私の中へと陛下の暖かな体温が広がっていくような感覚がした。
「…………………陛下。色々とご迷惑をおかけ致しました」
先程の話は結局分からないままであったが、陛下が心配をし、必死に探していた事は何となく分かる。
いや………そうでなければきっとこの場には居ないだろう。