暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】


そこのところ少し気になりはするけど、あの中で上手くやっていけているのなら問題はないか。

自ら手を出すような子ではないから、気にくわない事を言われた場合は対抗して口喧嘩ぐらいだと思うし…うん。

そう思っておこう。

私は気を取り直してクレハに違う話を振った。

「メイドもそうだけど騎士や兵士志願合格者達も仕事を開始したのでしょう?クレハから見て将来国の為になりそうな逸材の者や気になる者はいたかしら?」

ガルゴ王国から出発する前、陛下と交わした会話の中で気になる発言があった。

両親に真実を伝えていないので里に帰りたいと私が陛下へ申し上げたとき、陛下は『春期騎士及び兵士志願者名簿の中に珍しい名があった』と言い、続いて『兵士にするには惜しい人物だとクレハが話していた』と私に仰られた。

なぜ両親に真実を伝える事と、騎士及び兵士志願者の中に珍しい名前があったのが結びつくのか疑問ではあったのだけど…。

クレハならその意味が分かるので…?

ジッと見つめると、クレハは困ったような表情をみせた。

「将来国の為になりそうな逸材の者……ですか」

顎に手を当て、私の質問に何か答えようと考えている。

「あ……別に無理して言わなくていいのよ!?なければそれでいいし……」

里のときは両親に妃である事をバレたくなくてクレハには普通に接してもらっていたけれど、ここではそうにもいかない。

クレハは宮殿の騎士で、私は陛下の妃。

私の発言だけで……相手に無理な力がかかってしまうという事の自覚が足りなかった。

だけど、

「いえ、せっかくお妃様から頂いたご質問です。お妃様に関しましては退屈されるお話かもしれませんが、申し上げても宜しいでしょうか?」

クレハは気にしていないといったような表情で私を見た。

「……えぇ。話して頂戴」

「今年は気になる者が二名ほど騎士として採用されました」

二名と言う事は…そのどちらかが陛下が言っていた者ね。

「一名は剣術だけでなく鋭い洞察力も兼ね備えておりまして、常に周りを把握しそれに合った行動をとる事を得意としています。人柄も良く一般の者としては非常に優れております」

一般の者……?

騎士として採用されるなんて……相当実力のある者なのね。

メイドの側近部のように宮殿の騎士は狭き門と呼ばれている。

主に貴族出身や代々騎士一家の中で本当に実力のある者しか入れないらしいけれど、たまにギャビンのように一般の者でも騎士として活躍できる者も中にはいる。

しかし、一般の騎士は非常に珍しく大変驚いた。

「……もう一名は?」

「もう一名も同じく一般の者でございます」

「……っ!凄い…」

一度に二名も一般の者が騎士に採用されるなんて聞いた事がない。

今年は例外な事が起こったようね…。

< 323 / 368 >

この作品をシェア

pagetop