暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
ある程度執務を終え時間が出来た昼過ぎ。
以前よりもだいぶ資料の減った執務机の椅子に陛下は腰を下ろしてある人物を待っていた。
「……ファン」
「なんだ?」
ポツリ…と唐突に口を開く陛下に、この国の宰相であり幼馴染のファンが直ぐに反応をした。
「あれは出来たのか?」
『あれ』とは陛下が周りに内緒で職人に作らせた物で、その指令を知っているのはファンだけ。
「あれなら出来たよ。既に職人から受け取ってある」
『ほら』とファンは懐から正方形の深みのある真っ赤な紅色の箱を取り出し、陛下に見せた。
それを見た陛下は中身を見るまでは安心出来ないと、直接ファンからその箱を受け取る。
「………ほぅ。これは上出来だな」
箱を開いた陛下は中の物を見て、満足気な声を上げる。
「国一の職人だからな。それにしても……あれほど女嫌いのお前が正妃を娶る日が来るなんて、幼馴染の俺としてはだいぶ驚きだ」
「……余は別に女が嫌いなわけではない。余に甘い声で近寄ろうとする女や、隣の座がただ欲しいだけの女が嫌いなのだ」
ファンの言葉に箱を片手に陛下は怪訝な表情を見せた。
「まぁ、今までそういった奴らを見てきたから仕方ねーよ。逆にアニーナさんのような純粋な方がいらっしゃる方が珍しい。前皇后様も…」
ファンが前皇后様についてうっかり触れてしまった時、陛下からもの凄い殺気が溢れ出すのが分かった。
触れてはいけない過去にファンは触れてしまったのだ。
取り合えずこのままだと自分が危ないと悟ったファンは、空気を変えようと違う話を持ち出した。
「そ、それよりも!!アニーナ様にあの事をお伝えしないのか?」
「…あの事?」
「アニーナ様の弟君が今年第二騎士団に入って来たんだろう?兵士希望だったところを、無理やり騎士に移動させたのはお前だと俺は知っているさ」
「別にあの者の身内だから騎士にさせたのではない」
「じゃあ、その者の実力で騎士に採用したのか?」
「当たり前だ。やり方はぬるいが…余はあの者の実力を知っている。そしてクレハも同様、この先の成長が楽しみな人物だと言っていた」
陛下とアニーナが初めて会ったあの裏路地で、たった一人で人身売買を行っていた輩を相手にしようとした度胸と、殺さずに倒した器量さ。
クレハも実感したあの者の実力。
二人の意見が一致して、アニーナの弟であるグランドは騎士で採用された。