暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
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木製の丸いトレーを手で持ち、急ぎ足で向かうのは陛下の待つ執務室だった。
陛下の為にと厨房で甘さ控えめのバタークッキーを作り、砂糖も何も入れないコーヒーを淹れて、廊下を歩いている時、偶然にもファン様にお会いした。
「お妃様が部屋へ来られるのを陛下は楽しみに待っていますよ」
「あ……直ぐに行きます」
クッキーを焼くのに時間が掛かり、痺れの切らした陛下がファン様を探しに行かせたのだろうか。
仕事もある事でしょうに、私を探しになんて考えただけで……何だかファン様に申し訳なく感じる。
サニーを後ろに引き連れ私は無事に執務室の前へと到着した。
「陛下に呼ばれて参ったわ」
ドアの前で護衛する兵士に一言声をかけ、私はトレーを片手にドアをノックすると中から陛下の声が聞こえ、許可の得た私は一人で部屋の中へと入っていった。