たった7日間で恋人になる方法

仮初めの恋人役である拓真君に、少しでも慣れるためにも時間が惜しいと、急いで執務室に戻ると、なぜか私の席に座っていたらしい拓真君が、ちょうどパソコンを閉じて席を立ったところだった。

『拓真君?…まだ帰ってなかったんだ』
『お帰り、あんまり時間もないし、そろそろ行こうか?』
『あ…でも、まだ打ち込みが…』
『データの入力なら、すべて終わってる』
『え…』
『打ち込みが終わったデータは、指定のファイルに収めてあるし…念のために、プリントアウトもしておいたから』

そう言うと、束になった用紙を手渡される。

さっき、この部屋を出てから戻るまで、10分も席を離れていないはずなのに、あの量のデータを、この短時間で入力したというのだろうか。

確かにプリントアウトしたものをみれば、すべてのデータがきちんと入力させているようだ。

『これ、拓真君一人で?』
『入力だけだったからね』

いつも作業が遅くて、叱られてばかりの”時枝君”からは、想像できない。

『あ、菊田さんには、これ内緒にしてもらえるかな?』
『…もしかして、いつも出来ないふり…してる?』
『まさか、そんなことないよ』
『でも…』

拓真君は、時刻を確認すると、『それより、時間なくなるから出よう』と、先を急かす。

職場では、常に下を向き身を縮ませ、同僚とも会話らしい会話もせず、女性と話すときは常にオドオドして、挙句に仕事のできないレッテルまで貼られてしまっている、ダメ男の代名詞みたいな”時枝拓真”。

なのに、今はまるで別人のように思えてきてしまう。

この数日間で、新たな彼を知る度に、今までのイメージが少しずつ崩壊していくようだった。
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