たった7日間で恋人になる方法


今夜の場所は、拓真君の方から”良いお店があるから…”と、予約してくれた店。

会社のある最寄りの駅から5つ隣の駅にある、馴染みの場所らしい。

『拓真君も、一人で飲み行ったりとかするんだ?』
『たまにはね…って、意外?』
『ううん、私も一人で行くお気に入りのカフェあるし、ちょっと一人でボーとしたい時とか利用してるし』
『今から行く店も、僕にとっては、そんな感じかな?』
『あ!まさか、ネットカフェとか…』
『あはは…違うよ、っていうか、興味はあるけど、そこいうとこ行ったことない』
『ふうん…そうなんだ』

それはそれで、ちょっと意外だった。

なんとなくイメージ的には、そういう店は、常連さんのような気がしていたから。

…それなら拓真君の落ち着く店ってどんなところなんだろう?と想像すると、街の小料理屋さんか、大衆食堂みたいなお店が浮かんでしまう。

今日は、昨日に増して”拓真君”に近づき、慣れなきゃいけないのだから、変に雰囲気がある店より、むしろそういった店の方が、緊張しなくて良いのかもしれない。

隣に並んで歩く拓真君をちらりと見ると、いつも通りの冴えない容姿なのだけれど、職場での彼と大きく違う点が一点。

社内での拓真君はいつも少し前傾の猫背なのだけど、今はきちんと背筋を真っすぐにして歩いている。

これについて拓真君が言うには、自分の身長が高いために、背筋を伸ばしてしまうと何だか偉そうな感じになってしまうから、職場では敢えて背中を丸めているらしい。

確かに言われてみれば、今の拓真君は、ただシュッと立ってるだけなのに、妙な存在感が表れてしまってる。

中途とはいえ、入社1年半で、この堂々たる風格は目立ってしまうのかもしれない。

不意に視線を落とし、昨日触れた手に目が留まると、慌てて視線を前に戻す。

『ん?どうかした?』
『ううん、何でもない』

不思議そうに見下ろす拓真君に、ぎこちない笑みを返す。

…ああ、いまだにこんな調子で、後三日で、”仮初めの恋人”を演じ切ることができるのだろうか?

拓真君には気付かれないように、小さく溜息を吐いた。
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