愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
それは頬を濡らす前に、彼の指先で拭われて、そっと抱き寄せられた。

逞しい二本の腕が背中と後頭部に回され、私の目の前には彼の喉仏がある。


男の人に抱きしめられるのは、記憶にある限り、これが初めてのこと。

心臓が壊れそうなほどに高鳴って、体は緊張に強張った。


恋人なら、こんな風に抱き合うことはきっと当たり前なんだよね?

そのうち、キスしたり、同じ布団で一緒に寝たりも……。


そう考えるとさらに緊張して、心臓が止まってしまいそうだ。

そんな私の様子に気づいた彼は、体を離すとクスリと大人の笑い方をする。


「抱きしめただけで、石のように固まってしまったね」

「ご、ごめんなさい……」

「謝らなくていい。私が有紀ちゃんに恋愛を教えてあげられるなら、とても嬉しいことだ。色々と、少しずつ練習しよう」


『色々って……どんなこと?』とは聞けないけれど、頭の中に妄想が膨らんでしまい、たちまち顔全体が熱くなる。

今はまだ戸惑いの方が大きいが、期待がないわけではない。

揺れる心を抱える私の腕を取り、立ち上がらせてくれた桐島さんは、「報告に行こう」と穏やかな口調で私を誘った。

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