愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
人前でのキスに、石のように固まってしまったら、桐島さんが片腕で抱き寄せて、恥ずかしがる私の顔をスーツの胸元に押し当てるようにして隠してくれた。


「一本気くん、これが理由だよ」という落ち着き払った声が、桐島さんの体を通し、響いて聞こえる。


「有紀子はとても純情で、私は無理をさせることのないよう、ゆっくりと恋愛を進めるつもりなんだ。まだ体の関係がないのは、彼女を愛しているからこそだ。私の愛情を否定される謂れはない」


自分の早い鼓動が、耳障りなほどに大きく聞こえている。

桐島さんが口にしてくれた思いが、私の胸を揺さぶり、嬉しくて涙が滲む。

私も心から愛していますという気持ちを込めて、彼の背に両腕を回し、力一杯抱きついた。

誰も口を開かない無言の間が十秒ほど流れてから、後ろに落胆したような一本気さんの声がする。


「わかりました。小川さんのことは諦めます。ご迷惑をおかけして、申し訳ありません……」



午後の時間は仕事に追われるようにして足早に過ぎ、帰宅してから三時間ほどが経つ。

紫陽花荘の居間の振り子時計は、二十二時十分を指していた。

桐島さんは食事と入浴を済ませ、浴衣姿で座卓に向かい、くつろいでいる。

私もパジャマ姿で、今年の初物の西瓜を切って彼に出したところであった。

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