愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
桐島さんの言い方だと、ライバル社への対抗措置がうまく機能し、プロジェクトが成功して終了となれば、日本に戻ることができる……というように聞こえた。

ベルギー社の副社長という地位を手放すのを、惜しいと思わなければの話だが。

まさか、ずっとベルギーで暮らし、もう日本に戻らないつもりでは……。

そんな予感もあり、私の心は騒めき立つ。

不安に瞳を揺らしたら、グラスを置いた桐島さんがいつもよりも暗い色をした瞳に私を映して「わからない」と、ため息交じりに答えた。


「日本に戻る気持ちはあるが、それがいつになるか……。ベルギー社の経営が安定するまで、としか言えない」

「そう、ですか……」


正直に答えてくれたからこそ、曖昧な言い方になってしまうのだろう。

それは仕方ないことだけど、わからないと言われたことで、不安は少しも減ることはなかった。

桐島さんは指を組んだ両手をテーブルにのせると、動揺する私に向けて「だから」と語気を強めた。


「有紀子、俺と一緒に来てくれないか?」

「え……?」

「ベルギー社で、今と同じような仕事をするのでもいいし、語学学校やカルチャースクールに通うのもいいだろう。経済的な心配はいらないよ。武雄くんの学費、生活費も俺が出す」


それは思ってもいない申し出で、喜んでいいのかさえ、すぐには判断できなかった。

弟をひとり日本に残して、私が海を渡るということがうまく想像できない。


「あの、紫陽花荘は……?」

この建物を処分してしまうのか、という心配も湧く。


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