愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
見知らぬ土地での生活に対し、不安よりも楽しみの方が大きく膨らんでいた。

見たことのない食材や花々に、新しい出会いが私を待っていると思えば、冒険心が刺激される。

心細くならないのは、頼れる桐島さんと一緒に暮らせるからに違いない。

けれども、それはどこか現実味のない夢物語のように感じ、私は日本にいるべきだという考えが心の大半を占めていた。

この気持ちは、義務感のようなものなのか……。

まだ高校生の弟をひとり日本に残しては行けないと、姉として思うのだ。

そうすると、桐島さんとは、何年続くかわからない遠距離恋愛になってしまい……。


「どうしよう」と今日何度目かの独り言を呟いたら、座卓の下に置いていたスマホが鳴り出した。

手に取ると、弟からの電話であった。

《姉ちゃん、元気?》という弟の声は、心なしかいつもよりさっぱりとして聞こえる。

どうしたのか問うと、今日、引退試合があり、高校部活動での剣道を、これで完全に終わらせたという報告であった。

《やり切ったから、なにも悔いはない》という言葉は、本心なのだろう。

清々しく明るい声の調子から、それが窺える。
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