愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
私のことまで心配してくれる優しい下宿人たちに、それを簡単に説明し、「私は大丈夫です」と少しだけ微笑んでみせる。

それから眉を下げて、横谷さんと視線を合わせた。


「横谷さんは、ええと……」


八十一歳の横谷さんは、ひとり暮らしは無理なのではないかと思われた。

足腰も目も弱り、買い物に行くのも一苦労であろう。

不動産屋にも相談したが、食事付きで紫陽花荘と同じくらいの安い物件は難しいそうで、サービス付きの高齢者用の住宅はどうかと勧められた。

ただし入居前にはまとまったお金が必要で、金銭的な余裕があるのかは、横谷さんに聞いてみないとわからない。


言わずとも私の懸念が伝わったのか、横谷さんが短い白髪頭をひと撫でして口を開いた。


「大阪に住む娘が、何年も前からおいでって言ってくれてるんじゃ。住み慣れた町でもう少しと思っとったが、引越時のようじゃな。花枝(はなえ)さんもいなくなって寂しいしな……。だからわしのことは心配いらん」


“花枝”は祖母の名である。

“大家さん”ではなく、祖母を名前で呼ぶのは横谷さんだけで、私よりも長くここで暮らしているから家族のような感覚なのだろう。

祖母の死に私と同じくらい泣いてくれて、寂しいという言葉以上の喪失感を抱えているような気がしていた。

娘さんと一緒に暮らしてくれるなら、私も心配せずに済み、心の荷をひとつ下ろせたような思いになれる。


あとの心配は、桐島さん……。
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