愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
「本日、入社しました小川有紀子さんが、挨拶に伺いました」と笹木さんが社長に声をかけ、斜め後ろに立つ私に、中に入るようにと手振りで指示をした。

緊張のため、「失礼します」という私の声は裏返りそうになる。

ゴクリと唾を飲み込み、二歩、入室した私が深々と頭を下げると、後ろでドアが閉められた音がして、隣に笹木さんが並んだ。


どうしよう、ドキドキして手が震える。

でも、失礼のないように、ちゃんと挨拶しなければ……。


両手を握りしめて私が頭を上げるのと、社長が椅子から立ち上がるのが、ほぼ同時であった。

ブラインドを下ろした窓際に立つ社長の顔に、私は驚いて目を見開く。

頭の中で急いで作り上げた挨拶の言葉は忘れ、「どうして……」と掠れた声で呟くのみ。


執務机を回って、こちらに向けて足を進める社長は、濃紺のスーツを着た長身の見目好い青年であった。

私はその人をよく知っている。

今朝、私の作った朝食を美味しそうに食べ、先に出勤しようとしていた私を玄関先で「行ってらっしゃい。頑張って」と笑顔で送り出してくれた人である。


「桐島さん……」


彼の名を呼んだ私に、隣から「え?」と驚いたような声がする。

「お知り合いでしたか?」と笹木さんが、社長に向けて問いかけたら、桐島さんは微笑んで頷き、私の前で足を止めた。


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