愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
「有紀ちゃん」と紫陽花荘にいる時と同じように呼んでくれて、灰青色の瞳が緩やかな弧を描く。


「驚かせてすまない。私がモルディ・ジャパンの代表取締役社長を務めています。今までそれを話さなかったのは……」


紫陽花荘の下宿人は、金銭的に余裕のない人がほとんどであった。

他の下宿人たちと同居していた時は、ひとりだけ浮いた存在になりたくないという思いが彼にはあって、職業を問われたら普通の会社員だと答えていたそうだ。


桐島さんは誰からも好かれていて、二階の共有スペースで大学生の鈴木さんと、よく将棋を楽しんでいたことを思い出す。

もし桐島さんがこんなに大きな会社の社長だと打ち明けていたならば、もしかすると仲間意識は芽生えずに、二階からは楽しげな語らいの声が聞こえなかったのかもしれない。


私に対しても、特別視せずに、他の下宿人たちと同じように対応して欲しかったから話さなかったと彼は言った。

紫陽花荘にふたりきりになってからも、なんとなく言い出しにくくて、こんな形で驚かせることになってしまったという話である。

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