愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
それでノートパソコンの電源を落とし、机上を整理して帰り支度を始めたら、本橋さんに「ねぇ」と声をかけられた。

「はい」と答えて左隣を見れば、なぜか真顔でじっと見つめられて、私は戸惑う。

すぐにいつもの親切そうな笑みを取り戻した本橋さんが、「急いでる?」と私に聞いた。


今日は二十時頃の帰宅予定だというメールが、少し前に桐島さんから届いた。

私が会社勤めをするようになって以降、彼は必ず帰宅時間を知らせてくれる。

それは、私が夕食の支度に焦らないように、という配慮だろう。


「いえ、時間はあります。なにかお手伝いできることがありますか?」と答えて、本橋さんに笑顔を向けた。


残業代なんていらない。

未熟な私が役立てるなら嬉しいという気持ちでいるのだが、仕事を与えられるわけではなかった。

「そこの休憩所で、コーヒーを一杯、付き合って」と本橋さんに誘われたのだ。


私の力を必要とされてはいなかったけど、その誘いも嬉しい。

仕事終わりのコーヒータイムと、先輩社員とのお喋り。

それは下宿屋の仕事でも、コンビニのアルバイトでも経験しなかったことで、憧れのOL生活のひとコマが実現するような心持ちでいた。

< 74 / 258 >

この作品をシェア

pagetop