愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
私たちは容器包装デザイン部を出て、廊下を右へ進む。

営業部とエレベーターホールがあり、そこを通過して開発部の前を通った先に、給湯室が見える。

その横に休憩用のオープンスペースがあり、自動販売機が二台と、椅子を四脚備えた木目の丸テーブルが三つ置かれていた。


今、テーブルを使用中の人はなく、私の分までカップのホットコーヒーを買ってくれた本橋さんと、向かい合って座った。


コーヒーをひと口飲んだ本橋さんは、眉を寄せてカップをテーブルに置く。

もしかして、砂糖のボタンを押し忘れ、苦かったのだろうかと思って見ていたら、しかめた顔を戻さないまま、彼女が口を開いた。


「午後の打ち合わせの後、笹木さんと廊下で鉢合わせたの。小川さんの話題になってね。あなたのご家族が営む下宿屋に、桐島社長が住んでいると教えてもらったんだけど、本当なの?」

「えっ……」


笹木さんは、私の入社初日のオリエンテーションを担当してくれた、総務部の女性社員だ。

社長室で桐島さんと三人で会話した時、笹木さんは、彼と私が大家と下宿人の関係にあることを知った。

ただしそれは逆であり、今、本橋さんが言ったように勘違いしていて、それを訂正する機会のないままである。
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