愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
「わかったわ。妹のように可愛がられているという感じかしら」と、彼女は笑顔のままに頷いた。


妹のようだと表現したのは、笹木さんに次いでふたり目だ。

それは私も感じていることなので、「そうです」と答えれば、本橋さんが飲みかけのコーヒーを手に立ち上がった。

コーヒーブレイクは、もう終わりらしい。


「私はもう少し仕事が残っているの。お疲れ様。また明日ね」

「はい、お疲れ様でした……」


本橋さんは親切にコーヒーをご馳走してくれて、今までと同じ笑顔で『また明日ね』と言ってくれた。

それなのに、廊下に響く彼女のパンプスの音に、焦りと不満が込められているように感じるのは、気のせいだろうか……?


手の中で、コーヒーの水面が揺れている。

私、嫌われるような言動を取っていないよね……?

自問しても答えは見つからず、不安の雲が広がるような心持ちでいた。



年が明けて二カ月ほどが経ち、今日は二月十四日。バレンタインデーである。

朝食と片付け、出勤の支度も終えて、七時半の居間で私はひとり、仏壇に向かって正座をしている。

花を欠かしたことのない仏壇は、昨日、駅前の生花店で購入した黄色いチューリップの花が、春を待ち望むように咲いていた。


「おばあちゃん、仕事に行ってくるよ。今日も一日、武ちゃんと私のことを見守っていてね」


< 77 / 258 >

この作品をシェア

pagetop