愛育同居～エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい～

そう考えて、私はますます顔を火照らせる。

頭に浮かんできた“恋心”という言葉に鼓動が弾み、慌てて心の中で言い訳を始める。


私がもし桐島さんに恋をしたら、優しい彼のことだから、どうやって私の熱を冷まそうかと困らせてしまうことだろう。

彼が素敵な男性であることは充分にわかっていても、私は恋愛感情を抱いてはいけない。

桐島さんに煩わしい思いをさせたくないし、今の居心地のいい関係を崩したくないからだ。

それに桐島さんだって、このチョコレートの意味に“感謝”以外のものはないと理解していると思うので、私が照れる必要はない。


『落ち着いて』と自分に言い聞かせたが、「有紀ちゃん……」と呼ぶ、いつもより少し低めの響きのよい声に心臓がまた跳ね、私は慌てた。

「い、行ってきます！」と桐島さんを置いて小走りで玄関まで行き、コート掛けからベージュのコートを取って小脇に抱えると、急いで紫陽花荘を飛び出した。


逃げちゃった……。

おかしいと思われたかな……。