残念系お嬢様の日常
浅海さんはどうしたのだろうと気になって探すと、人に囲まれているようだ。
あれだけ浅海さんのことを煙たがっていたはずなのにティアラ欲しさに話しかけに行っている生徒もいる。
「あ……すみません。通してください」
私に気づいた浅海さんが人混みをかき分けて、歩み寄ってきた。
「これ、よければ雲類鷲さんにもらってほしいです」
差し出されたのはダイヤモンドが埋め込まれている華美なティアラ。
状況が飲み込めずに必死に脳みそを働かせようとしているけれど、思考が追いつかない。
「えっと……どうして私に?」
「今までたくさん助けられてきました」
「で、でも」
「ティアラは一番似合うと思う女性に渡すものだと先ほど真栄城さんから聞いたので、雲類鷲さんに受け取ってほしいなと思ったんです」
浅海さんの努力で手に入れたものを私が受け取っていいものなのか悩んだけれど、誠実な思いを素直に受け取ることにした。
「ありがとう。つけてくれる?」
少しかがむと、浅海さんがティアラをそっと頭にのせてくれた。ティアラなんて初めて身につけたので照れくさいけれど、私までお姫様のような気分。
私たちの組み合わせが意外なのか周囲はどよめいている。
「雲類鷲さん、〝僕〟と踊っていただけますか」
曲が流れ始めたタイミングで、浅海さんが私に手を伸ばした。
その手に指先を乗せて、にっこりと微笑む。
「よろこんで」