覚悟はいいですか
「紫織のこと、きちんと話しておこうと思って、会社の近くのホテルで食事したんだ。
そこで好きな人がいて、結婚を前提に付き合ってると言ったら、最初は驚いたけどすごく喜んでくれて。
まあ、予想通りだけど」
あれ?お見合いを薦められていたんじゃない?
そう思って訊ねると、ご両親は結婚相手に拘りがある訳ではなく、
早く落ち着いて孫の顔を見せて欲しかっただけらしい
少しホッとした
「それで紫織のことをいろいろ訊かれた。大学の時一緒だったことを話したら、母さんは紫織を覚えてたよ」
礼のマンションに友達数人で遊びに行った時、お母様にお会いして、緊張したのを思い出した
「お会いしたの、1度だけだよね!?」
「ああ、けどちゃんと覚えてたよ。
母さんは仕事柄、人の顔と名前は忘れないからな
それから、今の会社のことや華のこと、あと堂嶋のことも話した」
礼がチラッと私を見る。
私は一瞬息を詰めた
でもいつかは知られることだと自分に言い聞かせ、息を吐き出して短く聞いた
「…。それで?」
「紫織の事、心配してたよ。
俺にちゃんと支えてやれ、何かあれば相談しろと父さんは言ってくれた」
「っ!」
胸が詰まる。一気に目頭が熱くなって、大きな雫が頬を伝った
礼は手に持っていたカップをサイドテーブルに置き、肩を優しく抱き寄せる
暖かい胸に頬をすり寄せると、涙が礼のTシャツに吸い込まれていく
背中を撫でる大きな手に一層涙が溢れた
でも続けて聞いた言葉に私は愕然となる
「父さんは受け入れてくれたけど…母さんが急に反対しだしたんだ」
「…え……」