覚悟はいいですか

礼の手にそっと触れる
その手をゆっくり引き寄せると、前髪の間から迷い子のような瞳が私を見た

触れた手を両手に包み込み、微笑んでみせてから、
揺れているその眼に語りかける

「私は諦めないよ、礼のお父様にもお母様にも受け入れてもらえるまで」

「…紫織」

大丈夫だよ、きっと認めてもらえる

「お母様が反対する本当の理由は、私には見当もつかないけど。
少なくとも礼のためを思ってのことだと思う」

「それなら認めてくれるはずだ」

やっぱり、お母様を信じてるんだね

「うん、でも堂嶋家は大きな家だし。
もしかしたら堂嶋じゃなくてもっと別な何か、お母様だけが知ってる何かがあるのかもしれない。そして今の私達には話せないことなのかも」

「……」

「だから時間をかけて、お母様が心を開いて話してくれるようになるまで待とう?
二人の気持ちは真剣だって信じてもらえるまで、私は諦めないよ」

「…俺も諦めない」

礼は力強く言って私の手を引き、抱きしめた
彼のぬくもりで心の温度が上がり、言葉を続ける勇気になる

「礼のお母様も落ち着いて冷静になれば、きっと向き合ってくれるよ
だからお母様を信じて、今は待とう?」

礼がその眼を細めて、優しい笑顔になる

「紫織、ありがとう。俺も諦めないよ。
必ず母さんを説得してみせるから」

そして私の腰に手を回し、顔を傾けた

徐々に秀麗な顔が近づき、眼の光が妖しく変化する
吐息が唇に触れ、私はそっと目を閉じて…

ブーという機械音に私と礼はピタッと止まる

音のする方に顔を向けると、礼が腰に回した手にグッと力を入れ「紫織」と甘い声で呼ぶ
再び重なり合う吐息……

ブーブーブー
「……」

「…紫織、こっち」
ブーブーブー…

「あ~~~!誰だ!もうっ!!」
< 163 / 215 >

この作品をシェア

pagetop