覚悟はいいですか

完全にそういう空気を壊されイライラした礼は、画面を見て急に真顔になった
形のよい眉を寄せ、指を滑らせる

「もしもし兄さん?何かあったのか?」

話しながらベッドを降り、私を振り返る
口パクで『お休みなさい』と言うと、ガクッと肩を落として寝室を出ていった

時計の針はもうじき日付が変わると示している

こんな時間にかけてくるということは、よほど重要な話なのだろう

短い同居生活のうちでも、帰宅後に連絡が来ることは少なくない
時にそのまま仕事部屋に入ってしばらく出てこないこともある

こんな遅くに電話が来たのは初めてだが、
礼はこれからまた仕事することになるのかな…

明日は15時に織部会長と都内のホテルでお会いする
礼がLa petite siréneにヘアメイクをお願いしてくれたのが昼過ぎだから、朝はゆっくりできるけど…礼、大丈夫かな…

怒涛の一週間の疲れが出たのか、今更酔いがまわったのか、
緊張してるはずなのに瞼が重くなってきた

石鹸の匂いがする清潔なリネンに身を横たえ、ふかふかの羽毛布団に潜り込む

朝食は胃に優しい和食がいいかな
あ、山芋あったからとろろご飯にして、焼鮭とミョウガの卵とじとシジミ汁、後は常備菜で…
などとつらつら考えていたら、通話を終えた礼が戻ってきた

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