覚悟はいいですか
「っ!」
寸でのところでかわされた金属棒はジョルジュさんの右耳を掠めて肩に落ちる
上半身を強打されながらも、ジョルジュさんは振り返りながら態勢を低くして足払いをかけた
後ろにいた男が転倒する
でも反撃もそこまで、すぐ横から飛んできた金属棒をもつ人達に次々と襲われ、
「ゔっ……」
と、くぐもった声を最後にドサッとうつぶせに倒れこんだ
「ジョ、ジョルジュさん!」
駆け寄ろうとするも、後ろから伸びた手に口を塞がれ、拘束される
「あっ!」
口を押えたガーゼから甘い匂いがする
まずい、と思った時にはもう遅く、足の力が抜けて倒れそうになる
そのまま抱えあげられ、抵抗したいのに力が入らない
この人達、誰なの?!何でこんな目に会うの!?
朦朧としだす意識を懸命に保とうと、耳から聞こえる様々な音に集中する
車のスライドドアを引く音、いくつかの乱れた足音と、『Hurry up!』と急かす声…
ドサッという何か重いものを投げたような音がした後、体の向きが変わって誰かに担ぎ上げられ、乱暴に放り投げられる
「きゃっ!?」
何かに当たった衝撃と共に声がした
「んん…」
この声、ジョルジュさんだ
彼も一緒に捕まってしまったんだ
脚の下に感じた革の感触で、辛うじて車の中だと分かる
意のままにならない体を更に縄で縛られ、目隠しと猿轡をかまされる
車が動き出し、身体が傾く
『助けて、礼・・・』
車の揺れとともに更に遠のいていく意識の中、
大好きな礼の笑顔が浮かんだ…
画面がズームアウトするようにその笑顔はどんどん遠く小さくなっていく
『礼っ、礼…』
遠のく彼へ懸命に叫ぼうとするけど、声が出ない
笑顔が更に小さくなると…
周囲の音が急激に遠ざかり、世界は真っ黒な闇に塗りつぶされていったーーー